2023コラム⑫ 2023年、遂に歴史的転換が完了した!?「売り手市場」時代の未来予想図(その1)
2023.8.3
弁護団代表 大川原 栄
前回のコラムにおいて、2023年春闘における大幅賃上げ状況等を踏まえ、それが労働力需給バランスが大きく変動したことによる「売り手市場」の顕在化(=経営者による一連の賃金抑制策の崩壊)という事態である旨を指摘しました。同時に、労働力需給バランスからくる「売り手市場」(労働者の需要が供給を上回る状況)は、実は6年ほど前から継続していたものの、それがこの間の「コロナ禍」による一時的な景気低迷による「雇用調整」という名目によって曖昧にされたことで、社会的経済的には「買い手市場」的状況(=「賃金抑制策」)が継続してきたことも指摘しました。しかし、昨年のコロナ収束による経済活性化と世界的な賃金上昇傾向が、遂に日本経済への大規模な影響をもたらしたのです。それは、「失われた20年(30年)」に終止符を打ったといっても過言ではない「売り手市場」の顕在化という歴史的転換の事実です。
この労働市場の需給バランス(「売り手市場」「買い手市場」)を考える上で参考になるのが、厚労省が発表している「有効求人倍率」(ハローワークにおける有効求人数÷有効求職者数)です。この数字が「1」を超えれば、求人数が求職者数を上回るということで「人手不足(売り手市場)」傾向があるとなり、2023年4月28日時点での全国平均は1.32(最高:福井県1.89、最低:神奈川県1.09)となっています。この有効求人倍率自体は、公的機関ハローワークにおける労働力需給をベースとした数字であることから、実体経済をどの程度反映しているのか疑問なしとしませんが、相応の信憑性がある数字の一つであることは間違いがないと思います。他方で、ハローワークを起点としない民間レベルでの労働力需給調整システムもありますので、その点を考慮しつつ有効求人倍率を捉えても、2023年においては明らかに「売り手市場」が継続・拡大しているということになります。
そして、この「売り手市場」という状況は、次の事実の存在により、これまでの一時的な「売り手市場」とは異なり、日本経済全体の大転換をもたらす歴史的事象としての恒常的な「売り手市場」の継続・拡大であると考えられるのです。
①回復困難な少子化傾向
日本全体の少子高齢化傾向(=労働者、労働力減少傾向)は数十年前から客観的事実として指摘されてきましたが、その抜本的対策がとられることなく現在に至っています。そして、今年、「異次元の少子化対策」をとるという動きがありますが、仮にそれが幾分機能したとしても、その効果が現れるのは20年30年先になります。したがって、今後、少なくとも数十年の間、「労働力不足」傾向が継続することは明らかな事実ということになります。
②外国人労働者の減少傾向
日本においては「失われた20年(30年)」の間も、社会の全産業において基本的には労働力不足であり、それを支えてきたものの主力が外国人労働者でした。外国人労働者の主要部分は、留学生、技能実習生という形態であり、「労働ビザ」あるいは「移民」という正規ルートの就労ではありませんでした。
日本(政府)は、この非正規外国人労働者の就労が無限に継続することを前提にして、日本の人口減少による労働者不足を補おうという政策(実質的な移民政策)をとろうとしてきました。しかし、アジア諸国の経済成長(賃金上昇)と円安が進行する中で、外国人が日本で就労するメリットが乏しいという実態が生じたことにより、日本(政府)の外国人労働者政策(移民政策)は破綻してしまったのです。
外国人労働者不足は、既に外食産業、建築産業等に影響を及ぼしていますが、この傾向はさらに加速していくというのも明らかな事実になります。
③非正規労働者数の減少傾向
「失われた20年(30年)=日本のガラパゴス的低迷経済」を支えた遠因の一つが非正規労働者の雇用増加であり、それによって賃金水準全体が押さえられてきました。
その非正規労働者の主力は歴史的には女性労働者でしたが、その総数自体が(現在の人口構成からして)現在の労働力不足全体を補えるほど大幅に増加することはないというのも明らかな事実になります。
少子化、外国人労働者、非正規労働者といった一見目新しいものではない日常的な出来事の変化は、これからの日本にどのような変化をもたらすのでしょうか。その未来予想図を見据えながらこれからの経営戦略を考えるのか、それには全く無頓着で経営戦略を考えるのかの影響はかなり甚大であると考えられます。
次回
コラム⑬ 「売り手市場」時代の未来予想図(その2)